最大級の愛を君に



着いた先は家からバイクで15分くらいにある料亭の隣のちょっとした広場。

ああそういえばこれからバイトだったなって思い出し、時間になるまでここで暇でも潰すことにした。

ここは山の上にある昔ながらの高級料亭でお金持ちとか政治家とか、俺の世界にいないキラキラした人たちが来るお店だ。

さっき話した3つ目のバイト先でちょうど一人キッチンに空きが出来たらしく、お願いしますと面接に合格した。

そこは賄いが食べれて、言えば家にも持って帰れるから母さんに食べさせたくてここの料亭にしたんだった。

それにここで働けば母さんが退院した後、もっと美味しい料理を家で作れるかもしれないとかいう、少し邪な考えもあった。

まだ雑用しか任されてないけど。


お客さんとか、料理長とかに怒られたりした時ここが逃げ場所だった。


穴場で誰もいないし。

それにここの広場から見る景色が最高に綺麗なんだ。

山の上にあるから下を見下ろすことが出来る。

都内にしては小さな街だけど結構気に入っているんだ。



「…見せてあげたかったな」



塀に手をかけさっきの事を思い出す。



連中に見せてもらった紙に書いてあった金額が母さんが残してくれた貯金額じゃ少し足りない額で、俺はその場にしゃがみ込んだ。


問題が一個解決するとまた何かの試練のように次々に出てくる。



あの名前。


紙に書かれていたあの名前は…。




生まれてから今までずっと苦労続きだった。


普通の家みたいに休日だらだらと家族で過ごした事もないし、友だちと遠出だってした事がない。


毎日、生きるのに必死だった。



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