いつかキミが消えたとしても
「ただいま」


と声をかけるが中から返事はない。


広めに取られている玄関を上がり、向かって右手がリビングダイニングになっている。


そこへ入って電気をつけると、熱いのに冷え冷えとした空気が漂っていた。


室内干しされている洗濯物を取り込んで、冷蔵庫の中身を確認する。


この前買い物にでかけたばかりだけれど、もう食材が少なくなってきている。


ザッと確認して今晩はカレーを作ろうと決めて冷蔵庫を閉めた。


舞の家は母子家庭なので、夕飯の準備は毎日舞が行う。


洗濯物も、乾いていれば舞が取り込んでたたむ。


小学生の頃は不得意だった掃除も、何年もやっていればさすがに慣れてきた。


周囲の人たちは舞のことを見て勝手に可哀想とか、大変だねとか声をかけてくるけれど、父親がいないことを不自由に感じたことはなかった。


父親は舞が生まれる前に病死してしまっているし、父親がいる生活というもののほうが正直ピンとこない。


母親が再婚でもすれば、話は別だけれど。


家事を済ませて脱衣所へ向かい、冷たい水で顔を洗う。


梅雨が開ければ冷房を付けれるけれど、今はもう少し我慢だ。


そんな中でガスを使うからすっかり汗が流れてきてしまった。
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