あの日溺れた海は、
「華さん、久しぶり」
不気味なほど真っ白な部屋の中に入ると、白衣を着た芹沢先生が片手を上げてラフに挨拶をしてきた。わたしもそれに「こんにちは」と言って答えた。
「まずは…無事に帰って来れてよかった。いつ電話が鳴るか気が気じゃなかったんだから。」
ハッハッハと豪快に笑いながらそう言う先生に、わたしも軽く笑いながら「すみません」と言い、椅子に座る流れてお土産を渡した。
「おお〜、美味しそうな人形焼だ。イルカの形だね。ありがとう。…それより、いつもの夢は見なかったかい?」
お土産を受け取り、袋の中を見て嬉しそうに笑った先生は、それを机の隅に置くと、わたしにそう聞いた。
「…でました。」
「…なんで言ってくれなかったの?」
あくまでも軽い声音で言う先生の眼鏡の奥の瞳を見ると全く笑ってない。本気で心配してくれてるみたいだった。
「えと、わたしを悪夢から呼び戻してくれた人がいて。」
わたしがそう言うと目の奥に潜めた怒りを解いて、「へえ」と興味深そうに先生は相槌を打った。
「それはすごいね。でも気をつけて。華さんは発作が出ると気を失うこともあるんだから。」
「はい…」
「とりあえずその時の状況を教えてくれるかな。」
そう言うと先生は近くにあったバインダーに紙を挟んでわたしが話すことを簡略的にメモを取り始めた。