あの日溺れた海は、

「藤堂先生にもあげようと思って!運転とかしてくれたし!」
 
 

月の言葉に、たしかに〜。ね〜。と他の部員も同調した。
 
 

「顔だけ良くてなんか良い噂聞かなかったからどんな先生だろうと思ってたけど…普通に面白い先生だったよね。」
 
 
 確かに藤堂先生は切長の目にスッと高さのある鼻、薄く整った唇と、容姿は側から見ても優れており、春に赴任してきたばかりの時は常に女子生徒に囲まれていた気もするが、あの歯に絹着せぬ物言いである。すぐに女子人気も落ち着いた。

 

「じゃあ、部長。これ渡しておいてね。」
 


そう言うと月は何食わぬ顔でわたしにおしつけた。
 

「部長だし、副担任でしょ?」
 

「まあはなちゃんが1番渡しやすいよね」
 

「華、恩に切るわ。」
 
 
 他の部員たちは有無を言わせずそう矢継ぎ早に言った。

玲には承諾すらしてないのにお礼まで言われてわたしは渋々封筒を受け取りカバンの中にしまった。
 
 
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