あの日溺れた海は、



「おはよー」
 
 
 暦の上ではもう秋なのに、吹く風は生ぬるく相も変わらず太陽がじりじりと肌を焼きつける。


夏休みが終わり、今日から新学期になる。とわは教室にいるクラスメイトに挨拶をすると席についてバッグの中から教科書を取り出して机の上へ置いた。


後ろのロッカーに教科書を仕舞おうとしたところで亮が「おはよ」と手をあげてわたしに挨拶をした。
 

「だいぶ焼けたねえ」

 
 夏休みの間、家が近いとはいえ特に顔を合わせることもなかったため、久しぶりに顔を合わせた亮を、わたしはまじまじと見つめてそう言った。


昔はよく家族同士でキャンプへ行ったり、旅行へ行ったりしたがそれも中学生に上がる頃になんとなく行くこともなくなっていた。


「当たり前だろ、サッカー部なんだから。」


何を不機嫌になってるのか、亮はわたしから顔を少し背けて素気なく答えた。


「そんなことよりさ、お前なんでメッセージ返してくんねーの?」

今度はこっちを見ながら拗ねたような口調でそう言う亮に、不機嫌の理由はそれか。と一人納得しながら「あー、ごめん。」と軽く流した。


「俺が祭り誘ったのにさ、返事ねえとかさ…。」


そうぶつくさ呟く亮に「はいはい、祭りなんて誰とでも良いでしょ。」と交わしてそのまま席に着いた。


いくら幼馴染だからと言って思春期の男女がお祭りに行くなんて不埒すぎる。
それならもっとわたしとなんかより、好きな子と行けばいいのに、とこっそりため息をついた。


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