あの日溺れた海は、
「…私が、受け取るわけにはいきません。」
何処か戸惑いを隠せない表情で小さく呟くと、わたしの前にそれを差し戻した。
その言葉に、胸が嫌な高鳴りを覚えた。
心のどこかで、あの合宿の帰りの車で見せてくれた、あの優しい眼差しを期待していたのかもしれない。
先生が写真を受け取ってくれなかったという事実にショックを受けて固まっていると、先生は半ば強制的にわたしに写真を握らせて、そのまま背を向けて職員室へ向かっていった。
合宿はつまらなかったのかな。それもそうだ、藤堂先生はただ運転して、私たちの監督をしていただけだ。それに…先生は二日目の朝、いつもより疲れが顔に出ていた。
それなのにあんな写真、渡されても迷惑だよね。
勝手に期待して、傷つくなんて馬鹿みたいだな。心の中でぽつりと呟くと、ポケットに写真をしまい込んで、とぼとぼと昇降口へ向かった。