あの日溺れた海は、
「ありがとうございました。学校からも遠いのに…じゃあ。」
そう言って車をゆっくりと降りると、捻挫した右脚庇いながら傘もささずに家の玄関へと向かった。
玄関を開けようとしたとき、ふと振り返ると先生の車はまだそこにあったので会釈だけすると家の中へと入った。
言ってしまった。
髪の毛から滴る雨水もそのままに、ぺたんと玄関に座り込んだ。
今更胸がドキドキしてる。
先生、困った顔をしていなかっただろうか。
思い出そうとしても夢中で話していたせいで先生がどんな表情をしていたのか思い出せない。
かわりに車の揺れと共に左右に動くあのペンギンのキーホルダーが目の前に浮かんだ。
先生は多分教師という職業に意欲的ではなくて、それが親子の中の摂理だからきっとそれをしているにすぎない。
だから私たちのことなんて仕事だから関わらなければいけないだけであって、本当は関心も興味もないはず。
それなのに…わたしと2人でいる時に不意に見せる優しい眼差しだったり、笑顔だったり、困惑した顔だって。
何かを期待せずにはいられなかった。