あの日溺れた海は、

 
「因みにジャンルは恋愛なんだけど」
 
 
「え…」
 
 
 一番やりたくないジャンルに勢いはどこかにいってしまった。そんな戸惑いを読み取ったのかおじいちゃんはハハハと笑い飛ばした。
 
 
「書いたことない?大丈夫だよ。作品の幅も広がるしいい経験になるよ。」
 
 
 おじいちゃんの言葉に苦笑いを浮かべながら断ろうと口を開きかけた。
 
 
「ね、藤堂先生。」
 
 
「え?あ、はあ。」
 
 
 斜め右のデスクに座る藤堂先生にそう話を振ると先生は曖昧な返事を返した。
 
 
「副担任の先生もこう言ってることだし。」
 
 
「いや、でも…」
 
 
恋を経験したことのないわたしに書けるものなのだろうか。顎に手を添えて考えた。いつかは書いてみたい気持ちはなきにしもあらずだけど、それは今じゃない気がする。

  
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