あの日溺れた海は、
でもそれを文章にしようとするとうまく書けない。
一体どういうきっかけで恋に落ちるのか、付き合った先に何があるかなんて恋愛初心者ほやほやのわたしには想像ができない。
わたしだって、急に好きだって自覚したし、好きになった理由を聞かれたってわからないし、じゃあこれからどうしたいの?なんて、わからない。
秋の夕陽が差し込む部室で、一人、頭を抱えて机に突っ伏した。
短編のプロットとはいえ、書き始めてもう3週間も経っているのに一向に書き上がらない。
それでも睡眠時間を削って考えているのに、まるでダメだ。
藤堂先生に聞きに行ってからだって1週間は経ってる。この1週間で自分の感情の豊かさと情緒の不安定さに心身ともに疲れていた。
その疲れを癒すように、校内の自販機で買ったホットココアをグビグビと飲み干してドン、と勢いよく机に置いた。最近の唯一の癒しだ。
朝のHRで毎日顔を見るだけで幸せな気持ちが溢れるし、授業がある日はもっと幸せになる。
でも、先生が他の女子生徒と話しているところを見たらギュッと胸が痛くなる。
あの日から特段話す用事もないし、自分から話しかける余裕もないし、先生からも話しかけられることはもっとないし、ただそんな姿を指を咥えて見ているしかできない自分にイライラもした。
廊下でカツカツと響く足音があれば振り返り、先生だった時は意味もなく胸が弾むし、そうじゃなかった時は何故か傷つく。
職員室の前や数学教科室の前をわざわざ経由して部室や教室に行くのに、運良く先生に会えるわけもなく、その度に勝手に落胆した。