あの日溺れた海は、
「だめ、だ」
頭の中でネガティブなことしか思い浮かばなくて、一旦スマートフォンを机の上に置いた。
その瞬間スマホが『シュポッ』と音を発した。
シュポ??え?
まさかと思い画面を見ると、緑色の吹き出しに『あ』と表示されていた。もしかして運悪く机の上に置いた時にミスタップで送ってしまったのか。
やばいやばい。と慌てて送信取り消しを押そうとした途端「既読」の文字が無情にも表示され、体から血の気が引いていくのがわかった。
こうなってしまった以上送らない以外の選択肢は無くて。
なぜ「あ」を送ってしまったのか言い訳と心配の言葉を猛スピードで打ち込んでいると、今度はスマホから着信音が流れて画面が切り替わった。
『お父さん』
滅多に表示されることのないその名前に不思議に思いながら通話ボタンを押した。
「お父さ『はな、今学校の前にいるからすぐに降りてきて』
普段聞くことのない切羽詰まった声に「どうしたの?」と問いかけると、お父さんはしばらく黙った後再び口を開いた。
『ペソの大冒険の作者さんが、亡くなった』