あの日溺れた海は、
そこからどうやって電話を切って、どうやって昇降口まで降りて、どうやってお父さんと合流したのか覚えていない。
 
 
 ただ幼い頃ペソと巡った世界が映画のように流れて、涙が止まらなかった。
 

「はな…。」


涙をこぼしながら助手席に乗り込むわたしを見て、お父さんは瞳を潤ませながらそうポツリと呟いた。何かを言おうとしていたが、何を言うべきか見つからないようだった。

 
そのままお父さんの車に乗ってお通夜へと向かった。
先生にラインを送らなければいけないのに、それすらも忘れていたくらい、一瞬で憔悴しきってしまった。
 

わたしが挫折から立ち上がれるきっかけとなった本。

そしてわたしが小説家を夢見るきっかけとなった人。


わたしとペソが辿った冒険が終わってしまって、急に突き放されたような、寂しくて怖くて、そんな気持ちで胸がいっぱいだった。
 
 
< 201 / 361 >

この作品をシェア

pagetop