あの日溺れた海は、

 
 
パチリと目を開けて、小さく伸びをする。

ずいぶん寝ていたような気がして慌てて時計を見ると、既に帰りのHRは終わっている時間だった。


驚いてベッドから飛び起きると、「あ、起きた?」とカーテンの向こうから柔らかい声が聞こえた。

「はい、ありがとうございました」

急いで教室へ戻ろうとペコリと小さくお辞儀をしながらそういうと「待って」と先生に引き止められた。
 
 
「えっと、まず同じクラスの齋藤くんがさっき来てくれたんだけど基本病人しか入室させられないからって帰しちゃったのね。一応伝えとこうと思って。それと、」
 

そこまで言うと保健室に置かれているミニ冷蔵庫からパックジュースを取り出すとわたしの前に差し出した。

何やら付箋もついている。
 
 
「これは藤堂先生から。副担任だからって、かなり心配してたわよ」
 
 
とくん、と胸が高鳴って顔から火が吹いているかのように一瞬にして熱くなった。

先生が、わたしに?心配してた?っていうかわざわざ来てくれたんだ。
 
それがすごく嬉しくて、疲れなんて一気に吹き飛んでいった。保健室の先生にもお礼を言って受け取ると、そのまま保健室を後にした。
 
 


廊下に出ると、教室までの道のりを歩きながら付箋をじっと読んだ。

そこには先生の細く整った字で『ちゃんと寝ることが約束できるなら飲んでください。』と書かれていた。
 
先生にそこまで言われたら、ちゃんと寝る。先生にも余計な心配かけちゃったし、亮にも迷惑かけちゃったし。
 
 
先生、誓います。わたしちゃんと寝ます。
 
執筆も、しばらくは一本に集中します。
 
 
そう心で誓ってストローを突き刺した。ココアの甘さが口いっぱいに広がった。
 
 
 
 
< 209 / 361 >

この作品をシェア

pagetop