あの日溺れた海は、

 
「えっと、あー…ども。」
 
「部活の店番じゃなかったのか?」
 
「あー…うーん。」
 
 
武田さんと亮を2人きりにしようと、部活の店番が急に入ってと嘘をついてしまったのだった。

どう言い訳しようかと考えていると、月がドーン!と席に頼んだものを置いて口を開いた。
 
 
「私たち、藤堂先生とデート中だから。」
 
二人に…主に武田さんに睨みを効かせてそう言い放つと月は席に座って構わずホットドックを頬張り始めた。

先生も我関せずといった表情でコーヒーを飲む。

そんな2人に倣ってわたしもちらちらと二人を見ながらもサンドイッチを食べ始めた。
 


 
「…デートってなんだよ。俺たちと回ることより大事なことかよ。」
 
 
そう言う亮に本当のことを言うわけにもいかず、黙って見つめていると、「華って、そういうやつだったのかよ。幻滅した。」と低い声でつぶやいた。
 


亮にそんなこと言われるとは思っていなくて、幻滅したと言われたことにひどく傷ついてじわっと涙が滲んだ。

本当のことが言えないもどかしさと、そんなこと言われてしまう自分が惨めだった。
 
 
「ちょっと、ひどい!こっちは「齋藤くん。」
 
 
月が居ても立っても居られないという様子でガタッと立ち上がり反論しようとすると藤堂先生がその言葉を遮った。全員驚きのあまり沈黙が生まれる。
 
 
< 225 / 361 >

この作品をシェア

pagetop