あの日溺れた海は、
『井上華様へ。全てを知りたいのであれば、私を探し出してみてください。』





そう丁寧な言葉でわたしを煽る赤ペン先生の文字に、珍しく唇を噛んで感情を露わにした。
きっと素敵な人なんだと思って、返事を心待ちにしてた自分が馬鹿馬鹿しくなった。


そう言われたら意地でも自分の力で探し出さなければ気がすまなくなってきた。





「あ、原稿用紙返ってきたんだ!」


いつの間にか部室に来ていた月がそう言うと、「なになに〜」と、同じく気付かぬ間にいた喬香が面白そうな顔をして近づいてきた。


「正体は分かったの?手紙は?」


そう言う月にわたしはムッとしながら無言で手紙を突き出した。隣に喬佳がそれを受け取ると、中を見るなり笑い出した。
その声に更に不機嫌さを表情に出すと喬佳は気まずそうに口を噤んだ。


「こうなったら本当に探し出してやるんだから。」


そう強く言い切ると、部員たちは「頑張って。」「分かったら教えて~!」と適当な返しをして、自分たちの机へと散っていった。

そんな部員たちの関心の薄さに内心寂しさすら感じながら、意地でも探し出してやる!と心でもう一度誓った。




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