あの日溺れた海は、
「久しぶり、だね。華さんにとっては喜ばしいことだけど、寂しかったなあ。」
にっこりと笑ってそう言う芹沢先生にわたしもぎこちなく笑って手に握っていた紙袋を先生に渡した。
「うん?ああ、そういえば修学旅行へ行ってきたんだったね。ありがとう。」
そう言って先生は紙袋を受け取って中身を出した。
「おー、くいだおれ人形の人形焼だ。どうせなら一緒に食べようか。」
そう言って丁寧に包装を剥がした。
「お構いなく…」
そういったわたしに「どこでそんな言葉を覚えたの。」と笑い飛ばした。
「…ということは、旅行中にパニックになったとか?」
人形焼と淹れてくれたお茶をわたしの目の前に出すと、先生は先程の笑顔とは打って変わって真剣な顔でそう聞いた。
「いえ、違うんです。…ただ精神科の先生としてではなくて、大人の男性として相談があるんです。」
そういうと先生は一瞬呆気に取られた顔をしたがすぐに優しい笑みを浮かべた。
「うれしいな。先生としてではなく、一人の人間として華さんがこうして頼ってくれるのは。それで、どんな相談なんだ?」
「…あの、わたし、好きな人がいるんです。」
ほう、と先生が相槌を打った。