あの日溺れた海は、
「その人のおかげで最近は悪い夢も見ずによく眠ることもできて、発作も出ることがなかったんです。」
悪い夢を見たくない、苦しみたくない、発作を起こして迷惑をかけたくない。でもそう強く願っても駄目だったから、いっそのことそう思うのをやめた。
それに先生のことを思い浮かべたら、急に安心して眠れるようになった。
そうしたら自然と出なくなっていった。自分でも驚くほど。
「そうか、あの時の…それは…本当によかった。」
「でも、それは、その人は…学校の先生なんです。」
あら、と先生は呑気な声を上げた。
「8つも離れてるんです。学校の先生と生徒が…そういう関係になるのって、ダメだって聞いたし。
…でも、先生の隣にいたいって思っちゃったんです。先生の心に触れたいって思っちゃったんです。…先生がわたしの抱えていた荷物を降ろしてくれたみたいに、わたしも…」
じわりと涙が滲んだ。出てこないでとクッと唇を噛んだ。その瞬間に芹沢先生の手がわたしの肩を優しく撫でた。