あの日溺れた海は、
「せんせ〜!テスト勉強付き合ってよ〜!」
「ん〜。」
颯爽と廊下を歩く藤堂先生とその後ろをついていく月の姿が見えた。
「ねえねえ!」「おーい」「センセってば〜」
そう声を掛ける月に対して「んー。」「はあ。」「なんでしょう。」と気の抜けた声で適当に返しながらも最後は『テスト週間 生徒の立ち入り厳禁』と張り紙のされた職員室に吸い込まれるように入っていった。
それでも月はめげずにドアの窓ガラスになっているところから藤堂先生に熱視線を送っているようだった。
わたしはドキドキする胸を押さえて姫乃と一緒に月の元へと近づいた。
「センセ〜こっち向け〜。」
そうボソリと言いながら視線を送る月の隣からわたしもひょっこりと顔を出してふざけ半分で見つめた。
「藤堂〜うちらに数学教えなさいよ〜。」
姫乃も藤堂先生の方を見ながらわざと声を低くしてそうつぶやいた。
斜めの席に座っていたおじいちゃんが私たちに気付いたみたいで、にこにこしながら先生に声を掛けると、先生はこちらを見て盛大にしかめっ面をした。
そんな藤堂先生らしくわかりやすい表情に、3人でケタケタと笑った。
少しうんざりした表情でこちらに近づく藤堂先生に「きたきた!」とわたしたちも少し湧いた。