あの日溺れた海は、
ふう、と深呼吸をした途端。「入るぞ。」と藤堂先生の声がドアの外から聞こえた。

「はい!」と微妙に裏返った声で答えるとほぼ同時にドアが開いた。
 
 
「急に、すみません。」
 
「いえ、全然。」
 

室内にぎこちない空気が流れる。先生はわたしの隣にこしかけると、窓の外を見つめて、その間沈黙が続いた。

 
「…これ、井上さんに。」
 
 
そう言って右手に持っていた紙袋をわたしの前に差し出した。

緊張で不思議と目に入っていなかったその紙袋に驚いて目を丸くしながらも「ありがとうござういます」と言って受け取った。

 
「開けていいですか?」と確認を取るとわたしは包み紙を丁寧に開けていった。
 

 
「…わあ。これ、すごい…。」
 
 

中を開けると高級感のある箱に、薄ピンクが可愛らしいボールペンが入っていた。
 
 
< 296 / 361 >

この作品をシェア

pagetop