あの日溺れた海は、

「あ、ありがとうございますっ。…すごい。」
 

感激の涙を堪えながらそう言うとじっと箱の中のボールペンを見つめた。

こんなもの、先生から頂けるなんて…。

使えないし、指紋もつけられない。
一生家宝として持っておきたい…!
 

「こんないいもの…私なんかが貰っていいんですか?」
 

声が思わず震えそうになるのを必死に隠しながら先生の様子を伺うように言うと、先生はフッと笑った。
 

「いつもお土産とか貰ってばっかりですから。」
 

先生はそうなんでもないように言い放った。


でも、冷静に考えて、わたしが上げたペンギンのキーホルダーと、月と半分こして買ったしかのキーホルダーの値段を足しても、この箱の中に入ったボールペンの値段には到底及ばないだろうということはわたしでも分かった。
 

「いいから。貰ってくれたら嬉しいです。」
 
そんなわたしの考えを見透かすように先生は口の端を上げたままそう言った。

わたしはもう一度「ありがとうございます」と言うと箱を大切に紙袋の中へ戻した。
 

< 297 / 361 >

この作品をシェア

pagetop