あの日溺れた海は、
「まあまあ、細かいことは気にしなくていいの。とにかく、今週の金曜日の部活の時に見に行くって言ってたから、部長さんよろしくねえ。」
そうのんびりとした口調でとんでもなく投げやりなことを言うおじいちゃんに、わたしは返事の代わりに冷ややかな笑いを返した。
「っていうことで、まずは同じ学年の美化委員から調べてみようかなって思ってるんだけど…。」
次の日の昼休み。わたしは人気の少ない廊下で月にそう打ち明けた。
月は紙パックのジュースのストローを口から離すと「正体を暴くって本気だったんだ…。」と苦笑いを浮かべた。
「当たり前でしょ。だからまず2組の美化委員が誰かを教えてほしいんだけど。」
わたしがそう言うと月は「えっとー。」と少し考えてから、思い出したのか「あ!」と声を上げて、すぐに顔を顰めた。
「男だよ、字が綺麗かは知らないけど、香水の匂いはしなかったと思う。」
その言葉にわたしは「だよねえ。」と返した。それでもまだあと4人の容疑者がいる。いちいち落胆している場合ではない。
「そういえばさ、この間の手紙と原稿用紙にはあの香水の匂いがしなかったの。」
「そうなんだ。なんでだろうね。」
何でだろう。それが分かったら探すのにも苦労しないのに。そう心の中で呟いて、ストローを口に含んで一口ジュースを飲み込んだ。