あの日溺れた海は、

「先生はね、近寄り難い雰囲気を出しているけど、本当は優しいの。…それに、発作が出たわたしを、助けてくれたの。」



「発作が出たって…ああ、体育祭の時の?」 
 
 
「体育祭?」
 
 
夏合宿での出来事を話しているつもりだったのに、亮が見当外れなことを言うものだから思わず聞き返した。


そんなわたしの様子を見て亮は一瞬顔が強張ったけど、すぐに諦めたように「あー、もう。言うつもりじゃなかったのに。」と、ぼやくとそのまま続けた。
 

「体育祭で華が脚を怪我して保健室まで俺が運んでやった時、俺がいなくなってからベッドで寝てたろ?
 …あの時、うなされてた華を藤堂が頭撫でたりしてたんだ。それのことかと思って。」
 
 
ああ…。

あの日わたしを悪夢から呼び覚ましてくれたのは本当に藤堂先生だったんだ。
 
 
どこまで先生はわたしを助けてくれるの。
 

わたしはただの生徒なのに、どこまで手を差し伸べてくれるの。わたしが先生を救おうと手を差し伸べてもそれを跳ね除けてしまうような、切ない笑顔を浮かべるだけなのに。
  

ずるいよ。
 
 
わたしの気持ちに気付いて。もっとわたしに先生の本当のことを見せて。
 
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