あの日溺れた海は、
「そもそもどこまで確定してるの?ほら、字が綺麗な人っていうことと、女の人っていうことは確実なことでしょ?」


そう言う月にわたしは頷きを返した。


まず字の上手さ。字が綺麗な人が汚く書くことは簡単だけど、汚い人が綺麗に書くことはできない。だからこれは確定だと思った。

そして性別。手紙の主語が『私』となっていたことからこれも女の子の可能性が極めて高いんじゃないかと思った。
最後に…



「本当に文学が好きな人なんだと思う。言葉でうまく言い表すことはできないけど、この原稿用紙に書かれている言葉がそう確信させるの。」



真っ直ぐと窓の外を見つめながらそう言うわたしに、月も黙って頷いた。


「…私もできるだけ協力するよ。」


先ほどの苦笑いを浮かべていた月からは想像もできなかった前向きな言葉にわたしは驚いて彼女の顔を見た。


「な、なんで、急に。」

「うーん、なんか楽しそうじゃん。それに、華が小説以外に何かに意欲的になることなんて珍しいから。」


そう言って笑う月に、わたしは「月ちゃん~。」とふざけて抱き着いた。
月はそんなわたしの頭をわしゃわしゃと撫でまわして「華ちゃん~!」とふざけた口調で返した。
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