あの日溺れた海は、
「大丈夫。」
わたしの耳元でそう低く優しく響く言葉にはっと我に戻った。
亮はとん、と勇気づけるように肩を手でたたいた。
彼の顔を見上げるととんでもなく優しい笑みをわたしに向けていて、恥ずかしくなって目を逸らした。
気づけば呼吸も正常に戻っていて視界もクリアになっていた。
改めて亮に今まで幾度となく助けられてきたんだなと実感して、胸がいっぱいになった。
「おはよー。」
亮と二人で教室に入るとざわついていた教室が一瞬静まり返り、それからまたざわざわとし始めた。
なぜかクラスメイトがわたしたちの姿を見ながらこそこそと話をしているようだった。
一緒に登校して来たからか、こんな目で見られるのは中学時代で慣れていたけど、ひさしぶりにこんな視線を浴びるのはしんどいな、なんて思いながら席に着こうとすると、どこからかドスドスと大きい足音が聞こえて来た。
「は〜〜な〜〜?」
足音の主である姫乃が不気味なほどにっこりと笑みを浮かべながらわたしの前に立ちはだかると甲高い声でそう名前を読んだ。
「お、おはよ。」
いつもと雰囲気が違う姫乃に戸惑いながらもそう返した。
姫乃は笑顔を崩さず続けた。
「おはよ、じゃないでしょ?何か言うことあるんじゃない??」
言うこと??もしかして、藤堂先生に告白したの、バレてるとか??何??どういうこと!?
混乱する頭の中をフル回転させながら「えっと、んー、はは。」と誤魔化していると、ついに姫乃は笑顔を崩してキッと目を釣り上げるとどすの利いた声で「とぼけてんじゃねえぞ。」とわたしに凄んだ。
「ご、ごめんっ、でも、何のことか分かんなくて…。」
反射的に謝りつつそう探りを入れると、姫乃の顔は更に怒りの色を増した。