あの日溺れた海は、
『井上!』
どこからか怒号が聞こえた。反射的に身を竦める。
『井上ぇ!』
黒い人の形をした影がわたしを視界に捉えるとゆっくりと近づいてくる。
『やめて。』
必死に叫んでも腰が砕けて立ち上がることもできなければ逃げることもできない。
『お願い。助けて。』
その声は届くはずもなく、黒い影は何かを叫びながらわたしの首をつかむと強く締めた。
途端に体が水の冷たさと湿り気に包まれる感覚がした。
青黒い景色が目の前に広がる。
また、いつもの夢だ。
苦しい。助けて。お願い。許して。
わたしが全部悪かった。
だから助けて…
藤堂、先生…
『今は進路面談だろう。関係ないことは慎みなさい。』
冷酷な視線をわたしに送る先生の幻影は泡となって消えた。