あの日溺れた海は、
はっとして目を開けると、冬だというのに汗でぐっしょりと濡れたパジャマが肌に張り付いていて顔をしかめながら呼吸を整えた。
そして自然とぽろぽろと涙が出てきた。
わたしの心は正直で、心の支えを失った途端にこうして悪い夢の中でもがき始めた。
これからまた向き合っていかないといけないと考えると怖くて、何も考えたくなくて、気づいたら机に向かっていた。
開けたカーテンから月明りが差し込んでわたしの手元を照らした。
わたしは夢中で書いた。
「はーなー。」
次の日の放課後、部室で原稿を進めていると月がひょっこりと開いたドアから顔を出してわたしを呼んだ。
わたしは手を動かしたまま「なに?」と答えた。
「今日部活休みだからみんなでカラオケ行こって話になってるんだけど、一緒に行かない?」
そう言う月にわたしは原稿から目を離さぬまま「ごめん、わたしはいいや。」と返した。
月は「ふうん。」と答えるとそのまま部室を離れるのかと思いきやわたしの傍へ近寄ってきた。
「はな、何かあった?」
そう問いかける月の言葉に、わたしは一瞬平静を失いかけて手を止めたけど、すぐさま何でもないような声で「なにもないよ。」と答えた。
「…そっか。わかった。無理しないでね。来たくなったらまたメッセージちょうだい!」
そう言うと月はそのまま部室を去った。わたしはざわつく胸を抑えると再び執筆活動に集中した。