あの日溺れた海は、
♪~♪~
着信音が流れた。緊迫していた空気が一瞬にして緩んだ。
亮は深くため息をつくとポケットから携帯を取り出した。
「母さん、何。……えー、俺もう家着くんだけど。…んー、わかったよ。じゃ。」
そう言って再び携帯をポケットの中に入れると再びため息をついた。
「ごめん、俺スーパー行かなきゃだから。」
「う、うん。」
目を伏せたままそう返した。
「じゃ、また明日。」
そう言って今来た道を戻ろうとする亮に、わたしは勇気を出して「あのさ、」と口を開いた。
「明日から一人で帰るから。待ってなくてもいいよ。もう、大丈夫だから。」
ぱっと見上げた亮の顔は暗くてどんな顔をしているかわからなかったけどなんとなくわかる。
彼は少しの沈黙の後「わかった。」と答えるとそのまま行ってしまった。
きっとこのままいってしまったら、わたしは亮の好意を利用する最低な女になってしまう。
わたしは亮のことを大切に思っているからこそ、亮とは友達でいたい。
そう思って、心苦しいけどハッキリと言葉にした。
ごめんね、亮。ありがとう。
わたしは心の中で彼の背中にそう呟くと帰路を辿った。