あの日溺れた海は、

「本当に、行くのか。」


放課後、数学強化室へ行こうとついに立ち上がった時、亮に声を掛けられた。

その声はどこか悲しげに二人きりの教室に響いた。

「うん。」


わたしは亮の方へ振り返ってそう短く答えた。


「行くなよ。」


亮の意外な言葉に思わず目を見開いて、それからへへ、と笑った。


「振られに行くのに、なんで止めるのよ。
 …それに、わたしが前に進むために必要なの。」


そう言うと亮は何た言いたげな顔をしたが、すぐにため息をついて、それから少しの間をおいて口を開いた。


「振られたら、俺のとこに来いよ。」


まっすぐにそう伝えられて、流石に笑い飛ばすことも、軽く流すこともできなかった。


わたしも亮を見つめ返した。

今までにないくらいまっすぐ。
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