あの日溺れた海は、
教室に着くといつものようにカバンの中身を机にしまっていく。
そして最後に携帯を取り出すとメッセージアプリを開いた。
『月、今日一緒にお弁当食べない?話したいことがあるの。』
そう送った瞬間に既読がついて、かと思えばすぐに返信を告げる音が鳴る。
『おけ!晴れてるし中庭のベンチとかどう?』
そこなら人気もなく話しやすい。『うん、じゃあそこで!』と送ると猫がOKと言っているスタンプが送られてきた。
ふう、と息をついて画面を閉じると「おはよ。」と後ろから声を掛けられた。
「おはよ。」
いつもと変わらない笑顔をわたしに向ける亮に、わたしは少し胸が痛くなった。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、亮は「そんな顔すんなよ。」とわたしの頭を軽く叩いた。
「昨日、振られなかったんだろ。」
唐突にそう言う亮に目を丸くして見つめた。
「何でわかるの?」
「そうやって顔に書いてあるから。」
そう言って亮はわたしのおでこにデコピンをお見舞いすると「おめでと。」と小さな声で呟いて自分の席へと帰っていった。
わたしはおでこを手でさすりながら亮の背中を見つめた。
亮だって辛いはずなのに、わたしに祝福の言葉をくれた、その優しさにまた助けられた。