あの日溺れた海は、


「…え?」



扉の向こうに広がる景色に思わず戸惑いの声が漏れた。



そこには原稿用紙を数枚抱えてわたしの机の前に立っている山崎さんが立っていた。

ちらりと見えたその紙には赤いペンで文字が書かれているのが見えた。赤ペン先生の字だ。

そう思って足早に彼女に近づくと、彼女は慌てて原稿用紙をもう片方の手に持っていたバッグに押し込んだ。



「それ、見せて。」



そう言うわたしを山崎さんはじっと見つめて首を横に振った。


「嫌です。」




「…わかってるんだよ。」




こんな急展開あるのだろうか。わたしはわかってしまった。


「違います。」


それでもなお首を横に振る山崎さんをわたしも負けじと見つめ返した。


「わかってるんだよ。…あなたが赤ペン先生だってこと。」









「あか…は??何ですか、それ。」



ドヤ顔で言うわたしに対してまだすっとぼけるつもりなのか、訳の分からないといった表情でこちらを見てそう言う山崎さんにわたしはため息をついた。

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