あの日溺れた海は、
「やっと気づきましたか。」
後ろから聞き慣れない低音ボイスに声を掛けられ、びくりと肩を揺らした。
ゆっくりと振り返る。
長いようで短いような赤ペン先生の正体を暴くために奔走した日々もこの瞬間終わりを迎えようとしていた。
正体を暴けて嬉しいような、ホッとしているような、また平凡な日々に戻るのかと寂しいような、不思議な感情を抱きながらその人を見上げた。
「あ、…えっと〜。……。」
「…藤堂です。私の名前くらいは覚えてください。」
今度はド忘れして名前が出てこないわたしに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて先生はそう言った。