あの日溺れた海は、
どうして。
どうしてわたしの原稿用紙を持っていたのか、どうしてわたしの作品を校正してアドバイスを送ったのか、そもそも数学の先生なのにどうしてそこまで文学に精通しているのか、どうして最初は正体は秘密だと言っていたのに、最終的に先生の方から姿を現したのか。
答え合わせをしたいことはまだまだ沢山あるのに、先生はわたしの言葉を遮って、ただ、「気まぐれですよ。」と言い放った。
張り付いたような微笑みに違和感を覚えながらも、わたしはうまく言葉が出ず、目を見開いたまま先生を見つめることしかできなかった。
そんなわたしに先生は容赦なく背を向けて、どこかへ向かっていってしまった。
その背中に追求することも、追いかけることもできずただ遠くなっていく先生の背中を不思議な感覚で眺めることしかできなかった。
…待てよ。
じゃあ、山崎さんがわたしの原稿用紙を持っていたのって…??
え???
また一つの謎が生まれて、それに耐えられなくなったわたしの脳がパンクしたようにぷしゅう~と空気が抜けるような感覚に陥った。