あの日溺れた海は、

「それは、わかった。でもどうして山崎さんがこれを持ってるの?わたしはてっきり藤堂先生が…」


その名前を出した途端山崎さんは狼狽して、「いや、やめて、」などとぶつぶつと言い出した。


「藤堂先生と、何かあった…「ないです!決して!藤堂先生は悪くない!」

不自然に思って再び先生の名前を出すと今度はヒステリックに叫び出す彼女にびっくりして、「ひっ…。」と小さく声を上げた。

何かに取り憑かれたように頭を振って否定する彼女を「あ、いや、ごめん…。」と勢いに乗せられて何故か謝った。




「取り乱してすみません…たしかに藤堂先生は、わたしが破った原稿用紙を持ってきてくれました。…でもそれ以上は、何も…関係、ないです…、脅迫とか、そういうのは…本当に申し訳ございませんでした…。」


暫くして落ち着きを取り戻した山崎さんは、再度藤堂先生の関与を否定すると、深くお辞儀をした。

脅迫?なんの話?と聞こうとしたが、また取り乱されたは困ると口をつぐんだ。

そして暫くして「もういいよ。じゃあ。」と言って、頭を垂れる山崎さんを尻目に鍵を開けた部室の中に入った。
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