あの日溺れた海は、
『華さん、調子はどう?』



『…今度海に行くことになって。』



『そうか、…僕は反対しないよ。ただ、』



『ただ?』



『"発作"が出た時に対処してくれる人はいるのかな。』



『…いえ。でももう5年も経つんです。夢を見る頻度も減ってます。』



『華さんがそう言うなら…もし何かあれば僕に電話して。』



『はい』



『ショック療法っていうのもあるしね、今は』



真っ白に塗られた部屋に先生の低い声が響いた。








『こちら今月のお薬になります。睡眠剤は─』




『芹沢メンタルクリニック』


手渡された白い処方箋に大きく書かれた文字をなんとなく眺めた。


この場所に通い始めてもう5年。


もうあの日から5年。
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