エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 小学四年生のとき、クラスの女の子の新品の消しゴムが放課後になくなり、その翌日にたまたま私が同じ消しゴムを持っていった出来事があった。

 当時、流行っていた花柄の可愛いシリーズで、誰かとかぶってもなんらおかしくはない。でもタイミングが悪かった。

『ひなちゃんがあいちゃんの消しゴムをとったんじゃない?』

 彼女と仲のよかった女子が言い出し、何人かはそれを信じて私はいわれない疑いの目を向けられるはめになったのだ。

 もちろん違う。母と一緒に買い物に行ったときに自分のお小遣いで買った。そう話しても私を犯人だと決めつけた彼女たちに話は通じなかった。

 全員に疑われているわけではないにしろ、小学生だった私は激しく落ち込んだ。

 誰かに相談しようにも、忙しい両親にどう説明していいかわからず余計な心配をかけたくない。途方に暮れていたとき、たまたま家を訪れていた稀一くんが私の異変に気づき、話を聞いてくれた。

 当時高校生だった稀一くんは、私にとっては大人同然の存在でとても頼もしく思えた。

『ひなが悪いことをしていないなら堂々としていればいい』

『でも……』

 それから彼は、レシートや私の消しゴムを買ったことを誰か証明できないかと聞いてきたので、レジに並んでいるとき同級生のお母さんに会ったのを思い出した。

 たしか母が消しゴムを買いにきた話をしていたはずだ。
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