エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 途端に目を泳がせていたら、いつのまにかテーブルにカップを戻し、空いた彼の右手に頭を撫でられる。おかげでつい本音が口を衝いて出た。

「正直ね、すごく寂しい」

「いつでも連絡してきたらいい。出られる保証はないけれど、必ず返すから」

 ニューヨークとの時差は十四時間もある。今月からサマータイムに入ったので正確には十三時間だ。

 ほぼ昼夜逆転する形になるのでリアルタイムで連絡を取り合うのはなかなか難しい。

「稀一くん、留学していたときもそう言ってくれたよね」

 思い出して笑顔になる。そうはいっても忙しい彼に気を使い、なによりただの幼馴染みの自分がどんな用件で連絡すればいいのかわからず、たまに近況のメールを送るのが精いっぱいだった。

 稀一くんが現地のポストカードで返事をくれるのが嬉しくて、今でもそのときのハガキは大事にしまってある。

「今、日奈乃は俺の奥さんなんだから変に構えず連絡してきたらいいんだ」

 思い出に耽っていたら打って変わって真剣な彼の声色に意識を奪われる。稀一くんは頭に触れていた手をゆっくりと滑らせ私の頬に添えた。

「それに俺が日奈乃を恋しくてどうしようもないときだってある」

 ゆるやかに唇を重ねられ、そこから深い口づけに移行するのに時間はかからなかった。私もあっさり受け入れ、ほのかにコーヒーの味がするキスに溺れていく。
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