エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 大学は地元の国立大に進学し、それなりにキャンパスライフを楽しんでいた。

 就職をきっかけにひとり暮らしをしようと意気込んでいたが、母が体を壊して入院したため実家を出るのを急遽とりやめた。

 母が亡くなった後も実家に住み続けたのは、最愛の伴侶を亡くした父を支えなければと思っていた経緯がある。

 だから、稀一くんの帰りをひとりで待っている今の状況は、ある意味初めての一人暮らしだった。

 最初こそ寂しさばかりを感じていたけれど、徐々に一人暮らしの新鮮さや楽しみなどを見いだし、それなりに快適に過ごしている。

 稀一くんが出張に出かけて一ヶ月半になろうとしていた。

 新年度が始まり今年も新入社員が入社してきた。まだ自分の未熟さから新人気分が抜けないところがあるが、私も確実に経験を重ねていく中、後輩ができるのはやはり大きな刺激になる。

 自分の抱えている案件をこなし、後輩指導もあって仕事は程よく忙しいがそちらの方が有り難い。

 時計を見たら、反射的にニューヨークの時間を考えるのが習慣になっていた。稀一くんとは、たまにテレビ電話で顔を見て会話したり、メッセージのやりとりなどをしている。

 少し前だと考えられない技術の進歩だ。でも画面越しとはいえ声を聞いて顔を見ればそのときは嬉しくて舞い上がるのに、通話を終えると言いしれない寂しさに包まれるのが難点だ。

 会いたい。稀一くんもそう思ってくれているのかな?
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