エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 先ほどとは打って変わって、稀一くんが笑いを噛み殺しながら意地悪そうに言ってきた。今の彼の表情は見えなくても容易に想像がつく。

「はーなーしーてー」

 身をよじって彼の腕から逃れようとするものの叶わない。さすがに足をジタバタさせるほど子どもではないが、この場での抵抗は相手の嗜虐心(しぎゃくしん)を煽るだけだ。

 わかってはいても素直に受け入れるのもできない。

 再び耳たぶに唇を押し付けられたかと思ったら、そこからゆるやかに首筋に添わされていく。薄い皮膚に伝わる感触に、ぞくりと肌が粟立ち私は頭を振った。

「や、だ。やだ」

 震える声で抗議すると首筋に音を立てて口づけられ、そっと解放される。私は守るように首を手で覆い立ち上がると、すぐさまうしろを振り向いた。

「ひ、人のことからかって楽しい?」

「人じゃなく“ひな限定”でなら。こればかりはやめられないな」

 まったく悪びれない返答に、むしろ私の方が言葉に詰まる。稀一くんはおもむろに立ち上がり、見下ろしていたのが見上げる側になった。

 さすがに文句のひとつでも言ってやろう。しかし先に動いたのは彼の方で、素早く頬に手を添えられ唇を重ねられる。

「しょうがない。日奈乃がいちいち可愛らしいから」

 さらりと言ってのけ、私を置いてさっさと歩き出す。しばらく金縛りが解けなかった私はややあって慌てて彼の後を追った。心臓がうるさい。

 大好きな彼と結婚してそろそろ一ヵ月になろうとしているが、いまだに翻弄されっぱなしの日々を送っている。
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