エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 次の日の天気は快晴で、私は午前中に家の用事を済ませ、午後から病院へ向かった。父の好物の和菓子店の水饅頭を差し入れに持っていく。

 病室のドアをノックして中に入ると秘書の(おき)さんが出迎えてくれた。

「日奈乃さん、お久しぶりです」

 ほぼ父と同い年なのに誰に対しても腰が低く丁寧で、気難しいところがある父の扱いも心得ている。

「お久しぶりです、沖さん。いつも父がお世話になっています」

 丁寧に頭を下げて中に入る。父の病院は個室で、十分な広さがあった。沖さんが気を利かせて部屋を出ていき、私と父はふたりになる。

「お父さん、久しぶり。体調はどう?」

「相変わらずだ。日奈乃こそ元気にしていたか? 稀一は今、ニューヨークだろ?」

 すかさず早口で返事があり、虚を衝かれる。

 さすが。もしかすると私よりも稀一くんの行動に関しては把握しているかもしれない。

 そう告げる父の口調はしっかりしているが、父の外見を見ると年相応だと感じる。

 いつもはハイブランドの高級スーツを身に纏い、白髪交じりの髪をきっちり整え厳しい顔をしているのが、今はパジャマを着て髪は無造作に跳ねている。

 顔色はお世辞にもいいとは言えず、頬も少し()けた。

 お父さんも確実に年をとっているんだ。

「うん、もうすぐ帰ってくるみたい」

 親の老いに対し寂しさにも似た複雑な感情を抱いてしまうが、それを無理矢理振り払い、私は明るく答える。そんな私を父はまじまじと見つめた。
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