エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 帰宅して行儀悪くリビングのソファに倒れ込み、うつぶせになってざわつく心を鎮めようとするがうまくいかない。思いがけず知った事実に頭が混乱している。

 稀一くんが私と結婚した理由ってなに?

『あなたと結婚したのは、あなたのお父さまに言われたから。逆らったら父と母はどうなるかを考えたらこうするしかなかったの』

 昨日観たドラマの台詞が蘇る。たしかに稀一くんの立場を考えたら父からの申し出を断れるわけがない。でも、受け入れなかったんだよね?

『そのときは『今の話は聞かなかったことにします』ってすげなく返されたんだよ』

 つまり、私との結婚をはっきり拒否するほど彼の中では可能性がないことだったんだ。

 なら、どうして? どうして私と結婚したの?

 胸がズキズキ痛みだし、思考を阻む。

 父が告げていたような状況になって、言われたことを思い出した? 私が可哀想になって?

 わからない。でもひとつはっきりしたことがある。

 この結婚には、愛どころか稀一くんの気持ちはひとつもないんだ。

 わかっていたつもりで、今になってはっきりとした事実を突きつけられ傷ついている自分がいる。

 父の容体が安定せず不安だった私に彼はプロポーズしてくれた。

 その後、父の体調が落ち着いて、改めて結婚する意志があると告げてくれたとき、どんな感情でも私との結婚には彼の意思があったと信じていた。

 けれど、その裏には父の働きかけがあったんだ。
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