エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 ベッドで横になっても眠気と吐き気がせめぎ合い、浅い眠りについては覚醒し、心身ともに休めない。

 私はゆっくりと身を起こした。

 時計を見ると午後十一時過ぎ。大きく息を吐いて隣のベッドを見たが稀一くんの姿はない。ダウンライトが灯された広い寝室に私はひとりだった。

 まだ仕事をしているのかな?

 彼が帰国してしばらくは同じベッドで眠っていたけれど、私が夜中に何度も吐き気に襲われキッチンやトイレに足を運び、そのたびに起こしてしまうのが申し訳なくなって、それぞれのベッドで休むことを提案した。

『その方が日奈乃にとっていいのなら』

 稀一くんは複雑そうな顔で笑って受け入れてくれた。

 うん、だってそっちの方がいいに決まっている。彼にとっても。

 治まらない胃のムカムカに眉をひそめ、私はベッドから抜け出しキッチンへ向かう。

 ストックしてある炭酸水をグラスに注ぎ、喉を鳴らして体内に流し込んだ。一瞬の爽快感に胃と胸がすっとする。

 寝室には戻らずふらふらとリビングのソファに向かい、腰を下ろして背もたれに体を預けた。天井を見つめ、深呼吸して目を閉じる。

 妊娠って不思議だな。自分の中で別の命が育っているなんて…。

 さらにはこの子は大好きな人の血を引いているんだ。

 前向きに気持ちを整え、胃の不快感から懸命に気を逸らす。
< 65 / 120 >

この作品をシェア

pagetop