エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 私は目を丸くした。そんなふうに彼が思う必要はまったくない。元々、家事は好きだし、なにより稀一くんに少しでも私と結婚してよかったって思ってほしかったから。

 その考えは間違っていたの? もしも恋愛結婚をしていたらこんな思いを抱くことはなかった? もっと素直に頼れたのかな?

「……稀一くんにしかできないことがあるよ」

 唐突な私の発言に稀一くんは虚を衝かれた顔になる。私は自分の右手を彼の方に差し出した。

「手を繋いでて」

 意味を理解した稀一くんは頬を緩ませ、私の右手を取った。ごつごつした骨張った手の感触は慣れ親しんだもので、手のひら越しに彼の体温が伝わってくる。

 なにもしてやれないなんてとんでもない。こうして稀一くんがそばにいて、大事にしてくれる。

「稀一くんの手、温かくて安心する」

 私、幸せだ。ホッと呟くとゆるやかに手を引かれ、私は彼の肩にもたれかかる形になった。

「日奈乃の気が済むまでずっと繋いでいるよ。なんならもっと日奈乃が望むことを教えて欲しい」

「稀一くん、甘やかしすぎだよ」

 私は苦笑する。妊婦だから? つわりで体調がすぐれないのは事実だけれどここまで至れり尽くせりなのは驚いた。

 稀一くんはなんとなく仕事が一番大切って感じだったから、結婚してこんなに甘やかされるとは思いもしなかった。

 それはやっぱり……私が彼の子を身籠っているのが大きいのかな?
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