エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
 さっきから告げられる稀一くんの思いが、どれも想像していなかったものばかりで頭がついていかない。

「え、じゃぁ、もしも私に好きな人ができたらって聞いたとき……」

 ふとドラマのセリフを思わず口にしてしまった際のやりとりを思い出す。稀一くんは冷静そのものだった。

『……もしも好きな人ができたから私と別れてほしいって言ったらどうする?』

『ひとまずひなの言い分をじっくり聞くかな』

 弁護士らしく、相手を尊重するのは稀一くんらしいと思った。その反面、突き放された気がして寂しかった。けれど、あれも稀一くんなりに私のことを考えてくれていたの?

 じっと彼を見つめたら、稀一くんは眉尻を下げた。

「そうだよ。それから、武志さんの話を『聞かなかったことにする』って言ったのは、冗談でも先回りしてほしくなかったんだ。武志さんの意思とは関係なく、日奈乃に結婚を申し込みたかったから」

「でも、なんで? いつから? 稀一くんが結婚したいと思う相手は私じゃないのに」

『結婚は、自分という人間をしっかり見てくれる女性とする』

 幼い頃から知っているとはいえ、私は稀一くんの仕事の大変さや抱えているものなどはわからないし、甘やかされてばかりで逆に稀一くんの支えになれている自信だって……。

「なぜ? 俺が望む相手は、日奈乃だけだよ」

 不安をあっさりと打ち消され、目を白黒させる。あまりにもはっきり言われて逆に面食らってしまった。
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