エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「俺は、日奈乃がいなかったらきっと弁護士になっていなかった」

「え?」

 稀一くんは私の頬に触れ、まっすぐに私を見つめてきた。

「父親と比べられるのは目に見えていたし、昔から外見や親の職業とか、そんな情報が先走って鬱陶しかったのもあったから」

 それは少しだけわかる。私自身も『お父さん、社長なんでしょ?』とか『ひなちゃんのお父さんは会社しているからお金持ちなんだ』と好き勝手言われた。

 稀一くんは懐かしそうに笑って話を続ける。

「でも日奈乃が小学校のときに友達に疑われて揉めたことがあっただろ? あのとき、ひなが『困った人を助けるなんて弁護士さんみたい』って笑うから」

 稀一くんのお父さんの職業でもあり、私の中で弁護士は身近で、正義の味方という印象だった。

 あの一件で、幼いながら私も稀一くんへの恋心を抱くきっかけになったけれど彼にとっても特別な出来事だったなんて。

「自分でも単純だと思う。でもどこかで父親の仕事に興味もあって迷っていたところを、ひなの笑顔で背中を押されて進路を決めたんだ」

 稀一くんの優しい笑顔になんだか泣きそうになって、無意識に服の裾をギュッと掴む。するとその手を取られて指を絡めて握られた。手のひらから伝わる温もりに胸の奥が満たされていく。

 その手をそっと口元に持っていかれ指先に口づけられる。あまりにも様になる光景に目も心も奪われた。
< 87 / 120 >

この作品をシェア

pagetop