エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
『稀一くんのことが好きだから』

 もしかして、私のあの告白?

 そういえば、ずっと彼に片思いをしていながら私はあのときまで自分の気持ちを口にしていなかったかもしれない。だとすれば、稀一くんだけを責めるのはお門違いだ。

 自然と顔が熱くなり、恥ずかしさを誤魔化すために、より彼に密着した。

「ずるい。稀一くんは今でも決定的な言葉をなにもくれていないのに」

 唇を尖らせて抗議するとなだめるように頭を撫でられる。

「でも言葉以上に態度で示していただろ? 好きでもない相手を毎日欲しがったりしない」

「そ、それとこれとは別!」

 反射的に叫んで、私はぎゅっと目を閉じて彼の胸に顔をうずめた。

「……どっちも欲しがったらだめかな?」

 言葉や態度、どちらでも気持ちを示してほしい。

 わがままかな? 大好きな彼と結婚できただけで十分に幸せだったのに。私はいつからこんな欲張りになったんだろう?

「だめじゃないさ」 

 弱々しく尋ねた後、降ってきた言葉におそるおそる顔を上げる。

「日奈乃が安心できるならいくらでも言うよ。でも一度口にした言葉は取り消せない。無効にはできないんだ」

 真面目な口調で続けてから、稀一くんは切なげに整った顔を歪める。

「この先、日奈乃が俺から離れたいと言ってももう聞いてやれない。手放す気はないんだ。そうやって俺に一生愛される覚悟があるなら」

「稀一くん」

 思わず発言を遮ってしまい、彼は驚いた表情になる。どうしても伝えたい想いが自分の中で溢れかえってくる。
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