エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「稀一くん」

 スーツから着替えるため自室に向かう彼の背中に声をかけた。続けて振り向いた彼に言いそびれていた言葉を放つ。

「おかえりなさい」

 すると稀一くんは魅力的な笑を返してきた。

「ただいま」

 彼の表情に胸を高鳴らせる。もう何度も見ているはずなのに、こればかりは慣れそうもない。

 稀一くんはさりげなく私に近づき、軽く唇を重ねた。次にまだ膨らみのない私のお腹に視線を送る。

「今日はあまりお母さんを困らせなかったんだな」

 私のお腹に手を当て穏やかに話しかける稀一くんは、素敵なお父さんになるんだろうなと思う。

 それにしても、本当にこのつわりに終わりが来るのだろうかと渦中は半信半疑だったのに、今こうしてつわりが突然なくなると逆に心配になってしまう。

 あらゆる匂いに敏感になって気持ち悪かったのに、急に世界が晴れやかになって久しぶりに料理を楽しめた。

 夕飯はなすと鶏肉の甘酢炒め、トマトとオクラの和え物、ゴーヤの焼き浸しに豆腐のお味噌汁と野菜と和食を意識した献立だ。久しぶりにご飯が美味しい。

 食事が一段落ついた後、病院で聞いた(いぬ)の日参りについて稀一くんと話し合う。安産祈願に行うそうで、せっかくなら行きたい。

 とはいえ、ここらへんだとどこがいいんだろう?

「よかったら稀一くんのご両親に聞いてみてくれる?」
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