ボトルメール
彰が諦めたことはそれだけじゃない。
これも小学生の頃の話だ。放課後、俺たちはダンボールに入った猫を拾った。彰がそれを家で飼いたいと言ったが母親も病気で病院にいることが多く、父親も仕事、彰と楓も学校がある。だから、飼えなかった。その話を聞いた俺は彰に「なら、うちで飼うよ」と言ったが、彰は既にその猫を野良猫にしていた。
猫を飼う方法はいくらでもあったはずだ。それこそ朱里さんの家で飼うとか。誰にも相談することなく勝手に諦めていた。俺は彰のそんなところだけは嫌いだった。
「…いつの話してんだよ。それにあれは普通に考えて無理な話だろ?」
彰はフッと笑ってから俺にそう言った。
「確かに彰じゃ無理だ。でも、夢は見るためにあるんじゃなくて、叶えるためにあるんだろ?」
俺は自分が言ったその言葉をどこかで聞いたことがあった。
「…なんだよそれ。」
ふと隣を見ると彰は泣いていた。すぐに理解した。彰は諦めていたんじゃなくて他人に迷惑をかけたくなかっただけなんだ。全て自分の中で解決する。