従者は惜しみない愛を捧げる―――流浪の落ち延び姫と双頭の獅子
「アマーリア様、よろしいですか」

 まさにその時、扉の外から声をかけられた。
 若々しいのに、落ち着いた深みのある響きに、アマーリアの細い肩が震える。

「お入りなさい、リナルド」

 窓辺に立ったまま、アマーリアが振り返る。その青い瞳には、長身の精悍な青年が映っていた。

 ゆるく波打つ黒髪と、碧玉を思わせる濃い緑の瞳――リナルドの凛々しく整った面差しは太陽神を思わせる。間違いなく、かつては多くの娘たちを引きつけたことだろう。

 ただしその左頬には、隠しようもない長く深い傷痕がある。そのせいなのか彼は、常に剣呑で近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。

 傷は、先の内乱の時のものだという。当時は十九歳で、すでに戦場に立っていたそうだ。

 出会ってから四年になるが、リナルド・カルヴィーノという名前や、王都の富裕な商家の次男で、北の国境を守る警備兵だったという経歴が、真実かどうかわからない。

 それでも彼が、アマーリアにとって誰より忠実な従者であることだけは疑いようがなかった。敗者の娘として王宮を追われて以来、どんな時も主をかばい、今もこうしてそばに付き従っていてくれるのだから。
< 3 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop