天才脳外科医の愛が溢れて――もう、拒めない~独占欲に火がついて、とろとろに愛されました~
「今日の午後は品川の大学病院に呼ばれてるんだ。手術を頼まれててね」
「そうなんですね」
売れっ子は大変だ。先週もどこかの病院に呼ばれて手術したんだよね。
「そういうことでいつもの頼むよ」
にっこり微笑む樹の手を取り、彼の目を見て告げた。
「先生は神の手を持っています。今日も必ず成功しますよ」
私も微笑み返したが、樹は私に顔を近づけて声を潜めた。
「キスはないの?」
「先生〜、もうここ病院です!」
思わず声を上げて怒ったら、そこに長野先生が通りがかった。
「あっ、氷室先生、茉莉花ちゃん、おはようございます。氷室先生、あとで僕の英語論文見てくれませんか?」
「いいよ。じゃあね、茉莉花ちゃん」
樹が長野先生と一緒に医局に向かうと、私は自席に座ってパソコンを立ち上げた。
朝は割と平穏に終わったけど、午後は急患が何人も運ばれて来て、うちの病棟は慌しくなった。
私も香織さんも入退院の手続きが数件入って患者さんへの説明や書類作成で忙しく、息つく間もなかったのだけれど、ようやく落ち着いてきてなにか飲み物でも買おうとナースステーションの奥にある談話室に向かう。
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