猫を拾った
「なぁ」


「なんですか」


「...お前は、俺を恨んでいるのか」



彼はやけに静かに言った。

恨んでそのうち殺すのか、復讐するのかと、意志を確認するようだった。



「いえ。恨んではいません」



私は考える間もなく即答した。

恨んだところで父が帰ってくる訳では無い。
父とすごした日常が、戻る訳では無い。

恨んだところで、今後何かが変わる訳でもない。



「...仕事だったんでしょう」


「でも俺には金がある。しばらく働かなくていいほどにはな」


「父だったらきっと、仕事なら仕方ないと殺されたはずです。たとえ金持ちでも、貧乏でも」



父は、優しかった。


自分が死ぬ事で誰かに利益が出るのなら、喜んで死ぬ。

自分が死ぬ事で誰かが不幸になるのなら、喜んで生きる。


自分の全てを差し出すことで誰かを救えるのなら、喜んで人権でさえも差し出す。


父は、誰にでも平等で優しかった。


だからこそ、母のように完璧を求めるわけではなかった。

きっとどこかでは求めていたのだろう。

それでも父は、最後まで私に何かをやれと強制させるようなことは、何一つしなかった。
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