猫を拾った
「大好きなんだな、父親のことが」


「...少なくとも、母親よりは。」



大好きかどうかは置いておいて、母親よりは好感はある。

父親の方が好きだと言える。

今この年齢で、母親に再び会って話せと言われたら、私は確実に拒否をする。

何を言うか分からない。
あんな女に、嫌味ひとつで抑えられる気がしない。


幼い頃、母に褒められるためならなんでもやった。

勉強を数時間やっていたし、友達だって頑張ってたくさん作った。

ピアノだって弾けるように練習したし、文句何一つ言わずにいい子に過ごした。


でも結果的にそれは、離婚というもので終わってしまう。

どれだけ無駄にしただろう。
あの女のためだけに。

あの女は父も、私でさえも愛してくれなかった。

その証拠に、不倫をした。


不倫の発覚は、母の妊娠だった。
記憶のない妊娠検査薬のゴミに父が問い詰めると、母はあっさり認めた。


アキさんがハンドルを握っていない左手で、私の右手を触る。

強く握りしめていたせいか、跡がついている。



「なぁ」


「...なんでしょうか」


「運転、疲れてきた」



時刻は午後19時、辺りは暗く、車に乗ってから6時間は経っていた。
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